初トリ。初主任。
学生時分に落研の先輩に誘われて、初めて上野鈴本演芸場に足を踏み入れました。
「怪しげなとこだなあ」
寄席をまったく知らずに手を引かれるまま入った時の感想は、終演後に覆ることになります。漫才、紙切り、太神楽、奇術、ギター漫談、そして落語。
「すげえな」
「いいかげんだなあ」
「俺はちゃんと働こう」
それから「怪しげなとこ」は「ちょっと素敵なとこ」、「いいかげん」は「良い加減」になりました。
あれから20年。ちゃんと働くこともなく、あのとき見上げていた高座に上がって、ましてやトリを取らせてもらえることになるなんて。
あのときの自分に言ってあげたい。
「ちゃんと働け」
そうしないと、この世界の厳しさを思い知ることになるぞ。人気商売なんだから、トリも取らせてもらえるけど、お客さん入らなかったら2度と出られないぞ、と。
それと同時に、師匠と同期とお客様に恵まれて、憧れの師匠方からお稽古つけていただいて、狂おしいほど愛しい日々を過ごせるぞ、と。
「夢ひとつ叶うぞ」
生意気にそんな感慨にふけるほど、トリが楽しみです。鈴本演芸場3月上席夜の部を任せていただきました。休演なしで務めさせていただきますので、お運びのほど何卒よろしくお願い申し上げます。
入船亭扇橋 拝